安岡正篤(1898-1983)

昭和の幕賓 安岡正篤氏

安岡正篤氏は、東京第一高等学校を卒業時に「王陽明の研究」、東京帝国大学在学中に「支那思想及び人物講和」を著しており、二十代の頃から陽明学者として知られていた。吉田茂、佐藤栄作、福田赳夫、中曽根康弘など、昭和の政財界のリーダーたちが従事していた。

 

人生の五計

1.生計:いかに自己を生きるか

2.身計:いかに社会で活きるか

3.家計:いかに家族を営むか

4.老計:いかに年をとるか

5.死計:いかに死ぬか

 

物の見方の三原則

1.長期的(数十年、数百年)にみる

2.多面的(客観的)にみる

3.根本的(本質的)にみる

 

六中観

1.忙中閑:どんなに忙しくても、自分のための時間を持つ

2.苦中楽:難しい事柄に挑戦してこそ、幸福感を味わえる

3.死中活:自分の弱みに、強みが隠されている

4.壺中天:人間の内面に無限の可能性が秘められている

5.意中人:心から繋がれる人の縁こそ、最大の財産である

6.腹中書:物事を表面的ではなく、本質的に理解していく

 

人生の三段階

1.他律規範生活

「ねばならない」という他から制限された生き方。この時期は、良き師か良き友人・先輩に恵まれるかどうかが重要

2.自律的規範生活

意識的に自分を律していく生き方。自分で目標を設定し、達成していくことが重要

3.完全なる自由な生活

志と強い信念を持ち、他律と自律の生活を繰り返していく生き方。体験を重要視し、リラックスして、冷静に事に取り込んでいく時期

 

学記の四為

『君子の学に於けるや、焉を蔵し、焉を脩し、焉に息し、焉に游ぶ(君子之於学也、蔵焉脩焉、息焉游焉)』(礼記 学記第十八)

これは学問を学ぶプロセスにとどまらず、ビジネス、習い事、あらゆることがこのプロセスを経る。

1.蔵:書を読み、記憶し、知識の枠を広げる時期

2.脩:実践を通じて、知識を身に着ける時期

3.息:学びと一体化し、自然体であり続けている時期

4.遊:天と一体化し、自由自在に生きる時期

 

出処進退

出:どんな出方をするのか

処:地位、ポストへの処し方

進:どのように進むか

退:どのように退くか

最も重要なのは退であり、無私の心で後継者を育てていなければ、小人である。

 

人と接する五つの自戒

1.和顔愛語を旨とし、怒罵相辱かしむるをなさず

常に朗らかな表情で、非言語コミュニケーションを心がける

2.簡素清浄を守り、怠惰放漫を戒む

自分の生活を律することが、すべての始まりである

3.小信を忽せにせず、有事相濟ふ

約束を守り、いかなる時も他者を思いやる

4.親朋には事無くして偶訪し、時有ってか季物を贈る

何もないときにこそ、友を大切にする

5.平生、書を読み、道を開くを楽しむ

日々が事上磨錬であり、常に自分を高め続ける

 

自己向上の五原則

1.瞑想の時を持つこと

2.常に学び知識を増やすこと

3.志を鮮明に持つこと

4.無私に徹すること

5.感動・感謝のできる人になること

 

徳と才

人間の本質は、徳である。知識、才能、技能とは、徳という幹に対しての枝葉である。

徳が才に勝るは君子であり、大人である。才が徳に勝るは、小人である。

心の明るさ、清らかさ、人を愛する、助ける、尽くす、恩を知る、恩に報いる、正直、勇気、忍耐などの尊い心の働きのことを指す。

 

精神的若さを保つための三つの心がけ

1.心中常に喜神を含むこと

積極思考で、いかなる時も常に心に喜びを持つこと

2.心中絶えず感謝の念を含むこと

感動感謝の生き方こそ、真の幸福につながる

3.常に陰徳を志すこと

人知れず善行を行い、徳を育むこと

 

自然界には、「創造」「変化」する絶対的な働きがある。それが「命」である。

立命:この命を法則化すること、自分の人生をどのように生きるのかを定めること

運命:自らの意志と備わった才を発揮することで、変えることができるもの

宿命:自らの意思で変えることができないもの

天命:自らの命を極め尽くすことで至るもの

知命:人間そのものへの理解を深めていくこと

 

慎独(しんどく)

人は孤独なのではなく、絶対的存在であり、人が見ていようがいまいが、絶対的な自己を確立し、世俗的な地位や名誉などに少しも乱されず、行いを慎むこと

「君子は必ず其の独を慎むなり」(大学)

 

参考文献

『安岡正篤に学ぶ』松本幸夫