昭和の幕賓 安岡正篤氏
安岡正篤氏は、東京第一高等学校を卒業時に「王陽明の研究」、東京帝国大学在学中に「支那思想及び人物講和」を著しており、二十代の頃から陽明学者として知られていた。吉田茂、佐藤栄作、福田赳夫、中曽根康弘など、昭和の政財界のリーダーたちが従事していた。
人生の五計
1.生計:いかに自己を生きるか
2.身計:いかに社会で活きるか
3.家計:いかに家族を営むか
4.老計:いかに年をとるか
5.死計:いかに死ぬか
物の見方の三原則
1.長期的(数十年、数百年)にみる
2.多面的(客観的)にみる
3.根本的(本質的)にみる
六中観
1.忙中閑:どんなに忙しくても、自分のための時間を持つ
2.苦中楽:難しい事柄に挑戦してこそ、幸福感を味わえる
3.死中活:自分の弱みに、強みが隠されている
4.壺中天:人間の内面に無限の可能性が秘められている
5.意中人:心から繋がれる人の縁こそ、最大の財産である
6.腹中書:物事を表面的ではなく、本質的に理解していく
人生の三段階
1.他律規範生活
「ねばならない」という他から制限された生き方。この時期は、良き師か良き友人・先輩に恵まれるかどうかが重要
2.自律的規範生活
意識的に自分を律していく生き方。自分で目標を設定し、達成していくことが重要
3.完全なる自由な生活
志と強い信念を持ち、他律と自律の生活を繰り返していく生き方。体験を重要視し、リラックスして、冷静に事に取り込んでいく時期
学記の四為
『君子の学に於けるや、焉を蔵し、焉を脩し、焉に息し、焉に游ぶ(君子之於学也、蔵焉脩焉、息焉游焉)』(礼記 学記第十八)
これは学問を学ぶプロセスにとどまらず、ビジネス、習い事、あらゆることがこのプロセスを経る。
1.蔵:書を読み、記憶し、知識の枠を広げる時期
2.脩:実践を通じて、知識を身に着ける時期
3.息:学びと一体化し、自然体であり続けている時期
4.遊:天と一体化し、自由自在に生きる時期
出処進退
出:どんな出方をするのか
処:地位、ポストへの処し方
進:どのように進むか
退:どのように退くか
最も重要なのは退であり、無私の心で後継者を育てていなければ、小人である。
人と接する五つの自戒
1.和顔愛語を旨とし、怒罵相辱かしむるをなさず
常に朗らかな表情で、非言語コミュニケーションを心がける
2.簡素清浄を守り、怠惰放漫を戒む
自分の生活を律することが、すべての始まりである
3.小信を忽せにせず、有事相濟ふ
約束を守り、いかなる時も他者を思いやる
4.親朋には事無くして偶訪し、時有ってか季物を贈る
何もないときにこそ、友を大切にする
5.平生、書を読み、道を開くを楽しむ
日々が事上磨錬であり、常に自分を高め続ける
自己向上の五原則
1.瞑想の時を持つこと
2.常に学び知識を増やすこと
3.志を鮮明に持つこと
4.無私に徹すること
5.感動・感謝のできる人になること
徳と才
人間の本質は、徳である。知識、才能、技能とは、徳という幹に対しての枝葉である。
徳が才に勝るは君子であり、大人である。才が徳に勝るは、小人である。
心の明るさ、清らかさ、人を愛する、助ける、尽くす、恩を知る、恩に報いる、正直、勇気、忍耐などの尊い心の働きのことを指す。
精神的若さを保つための三つの心がけ
1.心中常に喜神を含むこと
積極思考で、いかなる時も常に心に喜びを持つこと
2.心中絶えず感謝の念を含むこと
感動感謝の生き方こそ、真の幸福につながる
3.常に陰徳を志すこと
人知れず善行を行い、徳を育むこと
命
自然界には、「創造」「変化」する絶対的な働きがある。それが「命」である。
立命:この命を法則化すること、自分の人生をどのように生きるのかを定めること
運命:自らの意志と備わった才を発揮することで、変えることができるもの
宿命:自らの意思で変えることができないもの
天命:自らの命を極め尽くすことで至るもの
知命:人間そのものへの理解を深めていくこと
慎独(しんどく)
人は孤独なのではなく、絶対的存在であり、人が見ていようがいまいが、絶対的な自己を確立し、世俗的な地位や名誉などに少しも乱されず、行いを慎むこと
「君子は必ず其の独を慎むなり」(大学)
参考文献
『安岡正篤に学ぶ』松本幸夫